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京都地方裁判所 昭和46年(行ウ)7号 判決

原告

宅間正夫

代理人

柴田玆行

外九名

被告

八木町公平委員会

右代表者

杣田研三

代理人

田辺哲崖

主文

被告が、昭和四六年二月二四日、原告に対してした不利益処分に関する不服申立て却下決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一、原告は、八木町役場住民課水道係長をしていたが、扶養親族手当の受給をめぐる問題に端を発し、昭和四五年一一月七日訴外八木町長中川平一郎に退職願を提出するに至り、これに対し右町長から同日原告の退職を承認する旨の辞職承認辞令が交付されたこと、原告は、同町長のなした右辞職承認は原告に対する懲戒免職処分ないしはその意に反する依願免職処分であつて、不利益な処分であることを理由に原告主張の日に本件不服申立てをしたこと、これに対し被告は原告主張のような内容の却下決定をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで右却下決定が適法になされたものであるかを検討する。

(一)  被告は、地方公務員法四九条の二第一項により職員から、不利益処分を受けたことを理由に不服申立てがなされた場合、同法五一条により委任されて制定された昭和四〇年八木町公平委員会規則第一号不利益処分についての不服申立てに関する規則(乙第一号証、以下単に規則という)六条一項に基づき、同項に定める事項について調査したうえ、不服申立てを受理すべきかどうかを決定しなければならない。そこで、どんな場合に不服申立てを受理せず、却下できるかを考える。

地方公務員法によつて、公平委員会の設置されている趣旨は、地方公共団体の専門的な人事行政機関として、任命権者から独立し、地方公共団体の職員の分限福祉や利益の保護をはかり、人事の公正を期することにある。

他方地方公共団体の職員は、民間の労働者と異なり、意に反する不利益な処分を受けた場合に、自ら争議権を行使して救済を求める手段が保障されていないばかりか、同法は、職員が不利益処分の取消しを裁判所に訴求するためには、公平委員会への申立てが受理されねばならないことを要件としている。

この公平委員会の設置の趣旨、機能及び権能や法構造にかんがみ、公平委員会としては、可及的に職員の不服申立てを取り上げて実質にわたつて審理し、職員の不利益処分救済に万全を尽すことが要求されるのである。

従つて、被告公平委員会が、規則六条一項により不服申立てを不適法として却下できるのは、申立書の記載事項及び添付書類に不備がありしかも補正がなされないとき、処分の内容として記載されている事項が明らかに不利益処分を含んでいないとき、不服申立人の資格を欠いているとき、申立ての期間が徒過しているときなど明白な形式的要件を欠く場合に限られ、そのための調査範囲も、右の形式的要件の存否に限られると解するのが相当である。

(二)  ところで、本件不服申立書(甲第一号証)には、処分の内容として「懲戒免職処分(依願免職処分)」と記載されていたので、被告は、原告主張の懲戒処分の有無を同町長から調査したところ、同町長は原告の退職願いに基づいてそれを承認したことが判明した。そこで、被告は、原告に対する同町長の懲戒処分はなかつたものであり、更に申立書に記載された依願免職処分については不利益処分に該当せず、しかもこれらの点は補正に親しまないと判断した結果、本件不服申立ての却下決定をしたことは当事者間に争いがない。

(三)  しかし、原告の提出した本件申立書には処分の内容として懲戒免職処分と記載されていて、これが不利益処分に該当することは明らかである。従つて、被告としては、不服申立書を受理するかどうかの形式的審査段階では、それ以上懲戒処分の有無を確かめることができないばかりか、右記載がある以上、申立てを受理して実質的審理を進めるべきであつて、申立てを却下すべき場合ではなかつた。

そして、不服申立書の依願免職処分の記載は、括弧書でなされ、原告は、依願免職を免職処分として受け取つていることが、一読して明らかである。このことと、成立に争いのない甲第四号証(通告書)の内容によると、右記載は、原告の意に反する依願免職処分に対する審査をも申し立てていると考えるのが当然であり、しかも原告の意に反する依願免職処分は明らかに不利益処分である。故に、被告はこの点においても申立てを受理すべきであつて、不適法として却下すべきではなかつた。

そうすると、被告のした本件却下決定は不適法であつて取消しを免れない。

三、むすび

以上の次第で、原告の本件請求は正当であるから、これを認容し、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(前田治一郎 古崎慶長 岩本信行)

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